明日への挑戦

2010年06月08日
「戸別所得補償制度、その光りと陰」(2) 山口大学農学部、糸原義人教授


農学博士糸原義人教授

 日本農業の復権は、歴史の検証から始まる。
 
 1960年池田勇人内閣の所得倍増計画の下、地方から太平洋ベルト地帯に多くの若者が“金の卵”として就職していった。1ドル360円の為替レートで対米黒字が急増し、1973年日本は変動相場制に移行した。以後円は一貫して高くなり、現在では90円前後になっている。
 
 日米貿易摩擦解消の過程で、日本の農産物自由化品目は拡大し、WTO発足後、円高下での自由化で日本の食料供給は輸入農産物が主流となっていく。
 
 戦後日本の農業構造確立は、1961年の農業基本法制定後であり、選択的拡大という構造改革が国家品目の“米”と選択的拡大作目である“畜産・果樹”に集中的に施行され始めた。また、選択的拡大作目も、自由化、円高による価格下落によって農業経営は悪化し、選択的拡大政策は事実上破綻した。
 
 1995年11月の食管法廃止は、農業所得維持政策の廃止と同義であり、また、1995年1月発足のWTOに中国が加盟し、農産物輸出競争に本格的に加わり、日本農業は米国・中国の輸入農産物の狭間で衰退することになった。
 
 失われた20年を経て、日本の財政が1,000兆円近くの債務を抱えている現在、様々なリスクを考慮した農業政策が求められている。食料自給率向上策はその一つの現れである。
 
 では、日本農業がここまで衰退した理由は何か?復権の可能性はあるのか? 
 
 日本農業衰退理由を踏まえながら日本農業の発展要因を述べれば、1.世界最大規模で急騰しすぎた為替の適正水準までの是正、2.海外農産物市場開拓、3.新規就農者、新規農業法人、農外企業法人の開拓、4.農業強化・保護育成政策の創出・推進、5.慣行農法の再考、新規需要・流通開拓、不在地主を含めた農地制度改革、6.将来展望を持った農政推進等が挙げられる。
 
 日本の農政で必要なことは、国際農産物市場を利用しようとする覇気である。為替への対応がされず、常に円高でただ輸入農産物の脅威に怯える農業では、生産者が夢をもって農業生産に励むことは難しい。しかし、以上のような点が解消されれば、世界最高水準の品質を誇る日本農業に復権を求めるチャンスはある。

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